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最高裁判所第一小法廷 昭和48年(行ツ)91号 判決

上告人 大洋食品株式会社

被上告人 国

訴訟代理人 枝松宏

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、上告人の製造にかかる乳素一号及び同一号-三〇が物品税法(昭和四一年法律第三四号による改正前のもの)別表第二種第四類四一号ロのコーヒーシロツプに該当するとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

同第二点について

原審の訴訟手続に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 岸盛一 下田武三 岸上康夫 団藤重光)

上告理由

第一点第二審判決(以下判決という)は物品税法に違背し、上告人の製造にかかる乳素一号、同一号~三〇(以下当該品という)が、物品税法別表第二種第四類四一号ロ、所定のコーヒーシロツプに該当しない物品であるにかかわらず、これに該当すると判定している。

一 そもそも物品税法上の課税対象物品は消費者に渡つて消費の目的に供せられ、消費者が税を負担するものでなければならず、消費者の存在は絶対不可欠の条件である。

これが物品税法の根本趣旨であるにも拘らず、判決は消費者に渡らず、不課税品たるコーヒー牛乳の業務用原料としての用途を持つ当該品を課税品なりと判定している。

その根拠として先づ、物品税法基本通達「コーヒーシロツプとはコーヒーを原料とし、これに甘味を加えたもので、稀釈して飲用するに適する濃度および甘味を有する飲料をいうこと」を取り上げているが、もともと法的拘束力を持たない基本通達を物品税法に優先せしめ、消費者の存在しない当該品を課税品と判断しているのは不当である。

次に判決が指摘する物品税法上第一種物品と第二種物品との区別は、実は単に課税技術、徴収上の便宜に基くものに外ならず、製造者の確認が比較的困難であり、品質規格なく、価格もまちまちであるため、小売段階での課税を得策とする物品を第一種とし、製造者の確認容易であり、規格統一され、販売価格も画一的であるため移出時における課税が便利な物品を第二種としているのであつて、課税対象物品としての要件に何の差異もないのである。

しかるに判決は第二種物品は第一種物品と異り、必ずしも直接消費面を対象とせず、卸取引形態を対象とするとしている。しかし、第二種物品もすべて消費者に渡つて消費の目的に供せられ、直接消費が要件となつているのであり、卸取引形態を対象とするとは如何なる意味を有するか理解出来ない。判決は物品税法の解釈を誤まり、本旨に違背している。

二 判決は非課税規定がなければ形態用途等の差異にかかわらず一律に課税されても止むを得ないのであるという。これは課税品と認定された物品についてのみ言える事である。消費者向け密栓殺菌したビン詰コーヒーシロツプは課税品であり、非課税規定がないから形態を問わず、如何なる用途に使つても一律に課税される。

しかし、上告人は当該品が一斗缶入り腐敗しやすい業務用原料であり、もともと課税品に該当せずとし、その根拠として、課税品の認定にあたり最も重要であり、税務大学の教材にも明記されている形態、使用方法、用途等を考慮した綜合判断をあげているのであり、大型冷蔵庫の例は業務用を非課税とする物品税法の一貫した趣旨が課否決定上極めて重要な意味を持つ事を主張するためである。

メープルシロツプの場合、製造方法、原料配合、稀釈して飲用に供し得る性状等よりして物品税法別表第二種第四類四一号イの果実みつに属するものであるが、主たる用途が調味であるため、課税品に該当せず不課税とされているのであり、非課税規定がなくとも用途によつて不課税となる実例である。

三 判決は物品税法別表第三種第四類四一号に掲げるし好飲料の定義に重要な意味を持つ「稀釈」の解釈を誤まつている。

判決の示す通り稀釈とは水その他の溶媒を加えてうすめる事である。この場合溶媒とは水、タンサン水、アルコール等の如く通常の意味で無味無臭の液体を指すのであり、液体でさえあればよいというものではない。

紅茶にウイスキーを加える時、ウイスキーの特性が失われないから紅茶を溶媒として稀釈したとはいえぬと同じく、コーヒー牛乳の場合、コーヒー液を牛乳で稀釈した、牛乳は溶媒なりというのは明らかに不当であり、正しくはコーヒーによる調味というべきである。判決は常識および社会通念に反し、正しい国語の解釈に従つていない。

第二点控訴裁判は民事訴訟法三一二条及び三一四条の法条を適用しない法令の違反である。

即ち、上告人が広島国税局協議団へ審査請求したため岡山支部が審査したすべての議決書及び関係書類が法令に基き税の課否を決定したその理由根拠等を記載した法令上作成されねばならない公的な文書であり、重大な証拠方法としての文書であつて、明らかに民事訴訟法三一二条三号後段の文書に該当するに拘らず控訴裁判所が上告人の取寄せ申立を理由も示さず却下したのは法令の違反である。

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